HTLV-1基礎知識Q&A
HTLV-1キャリア妊婦
- 妊娠、分娩、赤ちゃんの発育などに、なにか影響がありますか
- 帝王切開で分娩するほうがよいのでしょうか
- 赤ちゃんにHTLV-1をうつさないためにはどうしたらよいですか
- どうしても母乳で育てたいのですが方法はありますか
- 初乳だけでも与えることはできませんか
- 短期母乳栄養というのはどれくらいの期間のことですか
- 短期母乳栄養を選択した場合どのようにすればよいですか、母乳を中止するのは難しくないですか
- 短期母乳栄養を選択した場合、短期母乳栄養から凍結母乳栄養に切り替えてもよいですか
- 短期母乳栄養を選択している人はどのぐらいいますか
- 凍結母乳栄養とはどのような方法ですか
- ミルクにすれば感染は完全に防ぐことができますか
- それぞれの栄養法を選んだ時に、母親から子どもにうつる割合はどれぐらいですか
- どのように栄養法を選べばよいですか
- 母乳を与えない理由を家族や周囲に聞かれた場合どうしたらよいですか
- 母乳を与えないことに罪悪感があります
- HTLV-1の抗体検査で判定保留の場合どうしたらよいですか
- 妊婦健診でHTLV-1キャリアと判明しましたが私はどうなってしまうのでしょうか
- 妊娠、分娩、赤ちゃんの発育などに、なにか影響がありますか
- HTLV-1に感染していても妊娠や分娩に影響を及ぼすことはありません。また、HTLV-1感染が原因で赤ちゃんに生まれつきの障がいが生じたり、産まれた後に異常を起こしたりすることもありません。
- 帝王切開で分娩するほうがよいのでしょうか
- 母乳を全く与えずミルクのみで赤ちゃんを育てても約3%の赤ちゃんはHTLV-1に感染し、これは分娩時の子宮内感染や産道感染によるものと考えられています。たとえ帝王切開による分娩を行ったとしても子宮内感染の可能性があるため、感染のリスクをゼロにすることはできません。今のところHTLV-1感染を理由に帝王切開による分娩が行われることはありません。
- 赤ちゃんにHTLV-1をうつさないためにはどうしたらよいですか
- ①母乳を全く与えずミルクのみで赤ちゃんを育てることが、HTLV-1をうつさないためには最も有効な方法です。ただしこの方法を選択した場合でも約3%は赤ちゃんにHTLV-1がうつってしまうことが報告されており、これは胎盤からの感染を含む子宮内感染や産道感染によるものと考えられています。
母乳で赤ちゃんを育てることは、お母さんにとっても赤ちゃんにとってもメリットがあると言われています。そのため、たとえ赤ちゃんに感染するリスクがあったとしても、どうしても母乳で育てたいとお母さんが強く希望する場合は、②90日未満の短期間のみ母乳を与え以降はミルクを与える(短期母乳栄養)、③-20℃以下の家庭用冷凍庫で24時間以上冷凍後、解凍して温めた母乳を与える(凍結母乳栄養)という方法もあります。
これまでの研究で、①完全にミルクで育てる、②90日未満の短期間のみ母乳を与え以降はミルクを与える(短期母乳栄養)という方法を選択した場合のそれぞれの赤ちゃんへの感染率を調べたところ、①と②の方法の間では、感染率に大きな違いがないことがわかりました。②の方法を選択した場合、なぜ①と同じようにほとんど赤ちゃんに感染しないのかははっきりしませんが、赤ちゃんがお母さんから胎盤を経由してもらったHTLV-1に対する抗体が短い期間残存して感染を予防する働きがある、母乳を飲む期間が短いためうつりにくいなどの理由が考えられています。②の方法を選択しても①とほとんど変わらないのであれば、②の方法がよいと思えるかもしれませんが、②の方法の問題は、一度赤ちゃんに母乳を与えてしまうと90日たった後にミルクに切り替えるのが難しいという点にあります。母乳を与える期間が90日を超えて長期化してしまった場合、その期間が6か月以下であっても感染リスクが約3倍上昇すると考えられています。
③の-20℃以下の家庭用冷凍庫で24時間以上冷凍後、解凍して温めた母乳を与えるという方法(凍結母乳栄養)は、母乳を凍結・解凍処理することによりHTLV-1に感染したリンパ球が破壊されることで感染能力を失い、赤ちゃんへの感染を予防すると考えられています。しかしながらこの方法は、栄養面では母乳栄養の利点を活かすことができますが、直接授乳できないため、搾乳や衛生面の配慮など、ミルクよりも手間がかかってしまうという欠点があります。また最近は「食品の細胞を壊さずおいしく食べられる」などといった冷凍庫も普及しており、家庭用冷凍庫で本当にHTLV-1に感染したリンパ球が破壊されたのかはっきりしないという問題点もあるため注意が必要です。今のところ、十分なデータがないため学術的に推奨できる予防法ではありませんが、低出生体重児などの場合で、母乳も与えたいが感染もできるだけ防ぎたいなどといった場合の選択肢のひとつとなります。
①~③のどの方法で赤ちゃんを育てるのかは、パートナーやかかりつけの産婦人科医、助産師、HTLV-1に詳しい医師などとよく相談し、分娩までにあなたが納得できる方法を選択することをお勧めします。
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HTLV-1に詳しい医師の相談窓口(有料)はこちら - どうしても母乳で育てたいのですが方法はありますか
- どうしても母乳で育てたいとお母さんが強く希望する場合は、90日未満の短期間のみ母乳を与え以降はミルクを与える(短期母乳栄養)、-20℃以下の家庭用冷凍庫で24時間以上冷凍後、解凍して温めた母乳を与えるという方法(凍結母乳栄養)があります。
ただし、90日未満の短期間のみ母乳を与え以降はミルクを与える(短期母乳栄養)という方法を選択した場合、一度赤ちゃんに母乳を与えてしまうと90日たった後にミルクに切り替えるのが難しいという問題点があります。母乳を与える期間が90日を超えて長期化してしまった場合、その期間が6か月以下であっても感染リスクが約3倍上昇すると考えられています。
また、-20℃以下の家庭用冷凍庫で24時間以上冷凍後、解凍して温めた母乳を与えるという方法(凍結母乳栄養)は、母乳を凍結処理することによりHTLV-1に感染したリンパ球が破壊されることで感染能力を失い、赤ちゃんへの感染を予防すると考えられています。しかしながらこの方法は、栄養面では母乳栄養の利点を活かすことができますが、直接授乳できないため、搾乳や衛生面の配慮など、ミルクよりも手間がかかってしまうという欠点があります。また最近は「食品の細胞を壊さずおいしく食べられる」などといった冷凍庫も普及しており、家庭用冷凍庫で本当にHTLV-1に感染したリンパ球が破壊されたのかはっきりしないという問題点もあるため注意が必要です。今のところ、十分なデータがないため学術的に推奨できる予防法ではありませんが、低出生体重児などの場合で、母乳を与える必要性が特に高いが感染もできるだけ防ぎたいなどといった場合の選択肢のひとつとなります。 - 初乳だけでも与えることはできませんか
- 初乳のみを与えた場合のデータはありません。90日未満の短期間のみ母乳を与え、以降はミルクを与えた場合(短期母乳栄養)、完全にミルクで育てた場合と感染率に違いがないことはわかっています。
- 短期母乳栄養というのはどれくらいの期間のことですか
- 生後90日未満のことです。母乳を与える期間が90日を超えて長期化してしまった場合、その期間が6か月以下であっても感染リスクが約3倍上昇すると考えられています。
- 短期母乳栄養を選択した場合どのようにすればよいですか、母乳を中止するのは難しくないですか
- 短期母乳栄養とは、生後90日未満母乳を与えることをいいます。ただし、一度母乳を与えてしまうと、生後90日までに断乳してミルクに切り替えるというのは、お母さんにとっても赤ちゃんにとっても簡単なことではありません。産後早期から母乳とミルクの混合にして哺乳瓶の乳首に慣れさせておく、産後2か月ごろから徐々に母乳を終了させるようにするなど、しっかりと計画を立てて赤ちゃんを育てる必要があります。乳房ケアの問題もありますので、早めに準備をする必要があります。短期母乳栄養を選択する場合には、90日目になるまでに完全にミルクに移行できるように、ご家族や助産師とよく相談しましょう。
- 短期母乳栄養を選択した場合、短期母乳栄養から凍結母乳栄養に切り替えてもよいですか
- 理論的には可能かもしれませんが、凍結母乳栄養は今のところ、十分なデータがないため学術的に推奨できる予防法ではありません。凍結母乳栄養は、低出生体重児などの場合で、母乳を与える必要性が特に高いが感染もできるだけ防ぎたいなどといった場合の選択肢のひとつとなります。
- 短期母乳栄養を選択している人はどのぐらいいますか
- 令和3年には、3歳時点での子どものHTLV-1感染検査を実施したHTLV-1キャリア母親のうち55%が短期母乳栄養を選択していることが報告されました(鹿児島県72.3%、その他の都道府県37.5%)。また当初、生後90日未満の短期母乳栄養を選択していても、生後6か月時点で母乳を与えていたのは約8%にのぼることがわかり、短期母乳栄養の難しさを示すデータとなりました。
- 凍結母乳栄養とはどのような方法ですか
- -20℃以下の家庭用冷凍庫で24時間以上冷凍後、解凍して温めた母乳を与えるという方法(凍結母乳栄養)のことです。凍結母乳栄養は、母乳を凍結・解凍処理することによりHTLV-1に感染したリンパ球が破壊されることで感染能力を失い、赤ちゃんへの感染を予防すると考えられています。しかしながらこの方法は、栄養面では母乳栄養の利点を活かすことができますが、直接授乳できないため、搾乳や衛生面の配慮など、ミルクよりも手間がかかってしまうという欠点があります。また最近は「食品の細胞を壊さずおいしく食べられる」などといった冷凍庫も普及しており、家庭用冷凍庫で本当にHTLV-1に感染したリンパ球が破壊されたのかはっきりしないという問題点もあるため注意が必要です。今のところ、十分なデータがないため学術的に推奨できる予防法ではありませんが、低出生体重児などの場合で、母乳を与える必要性が特に高いが感染もできるだけ防ぎたいなどといった場合の選択肢のひとつとなります。
- ミルクにすれば感染は完全に防ぐことができますか
- 母乳を全く与えずミルクのみで赤ちゃんを育てたとしても、約3%は赤ちゃんにHTLV-1がうつってしまうことが報告されており、これは子宮内感染や産道感染によるものと考えられています。
- それぞれの栄養法を選んだ時に、母親から子どもにうつる割合はどれぐらいですか
- HTLV-1流行地域である長崎県のATLウイルス母子感染防止研究協力事業 (APP)による追跡調査では、長期母乳栄養を行った場合の母子感染率20.5%(71/346名)に対して、完全人工栄養では2.4%(23/962名)に低下したことが示されています。
また平成21年度の厚生労働省科学研究班(斎藤班)の報告では、HTLV-1の母子感染に関する過去の成績(平成3~21年)を集計し、栄養法別の母から子への感染率が、①完全ミルクで3.3%(51/1553)、②短期母乳栄養1.9%(3/162)、③凍結母乳栄養3.1%(2/64)で、90日以上母乳を与える長期母乳栄養が17.7%(93/525)という結果でした。
また令和1年度の厚生労働省科学研究班(板橋班)の報告では、全国92施設の協力を得て実施したコホート研究(平成24~27年)から、栄養法別の母子感染率が、①完全ミルクで6.4%(7/110)、②短期母乳栄養2.3%(4/172)、③凍結母乳栄養5.3%(1/19)、90日以上母乳を与える長期母乳栄養が16.7%(2/12)という結果でした。
これらの結果を総合的に判断するために、3か月以下(3か月未満、90日未満を含む)の短期母乳栄養と完全人工栄養による母子感染率を比較した後方視的研究5編 (昭和64~平成29年)と厚生労働科学研究班によるコホート研究の結果を統合したメタアナリシスが実施され、その結果、3か月以下の短期母乳栄養と完全人工栄養では母子感染率に明らかな差がないことが示されましたが、6か月以下の短期母乳栄養は完全人工栄養と比較して母子感染リスクが約3倍高いことが示されました。 - どのように栄養法を選べばよいですか
- それぞれの栄養法のメリット、デメリットをよく理解した上で、あなたがどうしたいかを基本として選択するのがよいでしょう。判断に迷う場合には、パートナーやかかりつけの産婦人科医、助産師、HTLV-1に詳しい医師などとよく相談し、分娩までにあなたが納得できる方法を選択することをお勧めします。
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- HTLV-1キャリアであることを知られてもよい人に対しては、赤ちゃんにHTLV-1をうつさないために母乳を与えていないと説明しましょう。逆にHTLV-1キャリアであることを知られたくない人に対しては、「母乳が出ないから」など、あまり詮索されないような無難な回答をしておくとよいかもしれません。母乳を与えないことについて、周囲の人がその理由を問うことがないような社会になることを願っています。
- 母乳を与えないことに罪悪感があります
- 一般の妊婦向けの情報では母乳育児が推奨されることが多いので、そのような情報を目にするたびに、つらい気持ちになってしまうのではないかと思います。しかしあなたは、赤ちゃんのことを大切に想い、赤ちゃんにHTLV-1をうつさないための勇気ある決断をしました。ミルクをあげるときに赤ちゃんの目を見ながら、優しく声をかけてあげれば十分な愛情を注ぐことができます。つらい気持ちになってしまうこともあるでしょうが、あなたの選択は正しかったと思います。
- HTLV-1の抗体検査で判定保留の場合どうしたらよいですか
- HTLV-1の感染を調べる抗体検査は、一次検査/スクリーニング検査、確認検査によって行われますが、ごくまれに確認検査で抗HTLV-1抗体があるかどうかが確定できない場合があります。これを判定保留といい、このような場合はHTLV-1核酸検出(PCR)法により血液中の細胞由来のゲノムDNAの中にHTLV-1のプロウイルスがあるかどうかを調べます。
PCR法で陽性となった場合には、HTLV-1に感染しているということになりますので、母子感染対策を行う必要があります。一方、PCR法で陰性もしくは検出感度以下となった場合、HTLV-1に感染していないとは言い切れませんが、母乳を介した母子感染の可能性は極めて低いと考えられるので、母子感染対策の実施は推奨されていません。 - 妊婦健診でHTLV-1キャリアと判明しましたが私はどうなってしまうのでしょうか
- HTLV-1キャリアの約95%は、生涯にわたりHTLV-1感染が原因となって起こる病気を発症せず、感染していない人と同じように生活することができます。
一方で、HTLV-1キャリアの約5%は成人T細胞白血病・リンパ腫(ATL)とよばれる血液の病気を、約0.3%はHTLV-1関連脊髄症(HAM)とよばれる神経の病気を発症します。また、HTLV-1キャリア10万人あたり90~110人がHTLV-1関連ぶどう膜炎(HU/HAU)という眼の病気を有していることが知られています。これらの病気を疑って病院を受診する際には、あなたがHTLV-1キャリアであることを伝えると、早期診断に役立つ場合があります。かかりつけ医がいる場合には、あなたがHTLV-1キャリアであることを伝えておいたほうがよいかもしれません。HTLV-1キャリアは病気を発症しているわけではありませんので、大きく心配する必要はありませんが、不安になってしまうこともあると思います。疑問や不安がある場合は、HTLV-1電話相談窓口を活用したり、HTLV-1に詳しい医師に相談してみるのもよいかもしれません。
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