HTLV-1基礎知識Q&A
HTLV-1について/HTLV-1の基礎
- HTLV-1とはなんですか
- レトロウイルスとはなんですか
- プロウイルスとはなんですか
- HTLV-1は体の中のどこに感染していますか
- HTLV-1はT細胞に入ったあと、どうなりますか
- HTLV-1感染細胞とはなんですか
- 一度HTLV-1に感染するとずっと感染したままですか
- HTLV-1は体の中でどのように感染をひろげますか
- 体の中でHTLV-1の感染をどのように抑えていますか
- HTLV-1のプロウイルス量や感染細胞率とはなんですか
- HTLV-1キャリアとはなんですか
- HTLV-1に感染するとどのような病気になりますか
- どのようなHTLV-1キャリアがATLを発症しやすいですか
- どのようなHTLV-1キャリアがHAMを発症しやすいですか
- どのようなHTLV-1キャリアがぶどう膜炎(HU/HAU)を発症しやすいですか
- いつHTLV-1に感染したかを知ることはできますか
- HTLV-1キャリアはどのくらいいますか
- HTLV-1キャリアが多い地域はどこですか
- HTLV-1総合対策とはなんですか
- HTLV-1対策推進協議会とはなんですか
- HTLV-1母子感染対策協議会とはなんですか
- WHOはHTLV-1感染対策に取り組んでいますか
- 世界HTLVデーとはなんですか
- HTLV-1とはなんですか
- HTLV-1は、Human T-cell Leukemia Virus type 1(ヒトT細胞白血病ウイルス1型)の略称で、ヒトに感染するレトロウイルスの一つです。同じレトロウイルスでは、エイズの原因となるHIV(ヒト免疫不全ウイルス)が有名ですが、HTLV-1とHIVは全く別のウイルスです。HTLV-1はレトロウイルス科オンコウイルス亜科、HIVはレトロウイルス科レンチウイルス亜科に属します。
HTLV-1は、血液中の白血球の一つであるリンパ球のうちのT細胞に感染します。HTLV-1感染細胞では染色体(ゲノム)DNAにウイルス遺伝子が組み込まれ、プロウイルスとして感染細胞中に定着します。B型肝炎ウイルスなどとは異なり、血漿中にはほとんど存在しません。
- HTLV-1の感染は、ウイルスに感染した細胞が対象の体内に入り込むことで成立します。そのため、現在は母乳による保育や性交渉が感染の原因になることが多いと考えられています。以前は輸血を介した感染もありましたが、日本では、昭和61(1986)年以降は日本赤十字社において、献血された血液がHTLV-1に感染しているかを調べるようになったため、現在は国内での輸血による感染はありません。
- HTLV-1が発見されたのは1980年と比較的最近ですが、元々はこのウイルスの原型のウイルス(STLV)がアフリカ大陸のサル属に広く感染しており、それが人類に感染してヒト型のウイルス=HTLV-1となり人類の移動に伴って世界に広がったものと考えられております。その後、人類の移動に伴って世界中に広がり、我が国では縄文時代以前にはすでに日本人に感染していたことが明らかになっており、太古より現代まで日本人に連綿として引き継がれてきたウイルスです。
- レトロウイルスとはなんですか
- レトロウイルスとは、ウイルス粒子の殻の中に、遺伝子の本体としてDNAではなくRNAを持つウイルスの一つです。レトロウイルスは感染後、宿主細胞の中でウイルス粒子の殻の中に持っていた逆転写酵素を用いてウイルス遺伝子の本体であるRNAをDNAに変換します(この過程を逆転写といいます)。この変換されたDNAが宿主細胞の染色体(ゲノム)DNAに組み込まれプロウイルスとなります。HTLV-1は特にヒトを宿主とするため、ヒトレトロウイルスの一つです。
- プロウイルスとはなんですか
- ウイルスの遺伝子の本体であるRNAから変換されたDNAが、宿主細胞の染色体(ゲノム)DNAに組み込まれた状態のことをいいます。宿主細胞の染色体(ゲノム)DNAに組み込まれたプロウイルスは、宿主細胞の遺伝子と同じようにRNAがつくられて(この過程を転写といいます)、ウイルスの遺伝子となったり、ウイルスを構成するタンパク質が合成されたりします。ただしHIVとは異なり、HTLV-1は感染細胞から感染性を持つウイルス粒子が産生されることは少なく、血漿中にはほとんど存在しません。
一度宿主細胞の染色体(ゲノム)DNAに組み込まれたプロウイルスは、その後二度と抜け落ちることはありません。宿主細胞の染色体(ゲノム)DNAに組み込まれる位置はランダムなので、プロウイルスが宿主細胞の染色体(ゲノム)DNAのどこに組み込まれているかは、感染細胞ごとに異なります。また、基本的に1個の感染細胞に組み込まれているプロウイルスは一つです。 - HTLV-1は体の中のどこに感染していますか
- 血液は、赤血球、白血球、血小板といった細胞の成分と、血漿とよばれる液体の成分から成り立っています。このうち白血球は、体内に侵入した細菌やウイルスなどを攻撃する免疫という機能を担う血球で、好中球、好酸球、好塩基球、単球、リンパ球などに分けられます。リンパ球はさらにT細胞、B細胞、NK細胞などに分類され、HTLV-1はこのうち主にT細胞に感染しています。
- HTLV-1はT細胞に入ったあと、どうなりますか
- T細胞の中に入り込んだウイルスは、ウイルス粒子の殻の中に持っていた逆転写酵素を用いて遺伝子の本体であるRNAをDNAに変換し(この過程を逆転写といいます)、この変換されたDNAがT細胞の染色体(ゲノム)DNAに組み込まれプロウイルスとなります。このように宿主細胞の染色体(ゲノム)DNAにウイルスが組み込まれている状態のことをHTLV-1に感染している(HTLV-1感染者)といいます。
- HTLV-1感染細胞とはなんですか
- ウイルスが宿主細胞の染色体(ゲノム)DNAに組み込まれた細胞のことを、HTLV-1感染細胞といいます。HTLV-1感染細胞は主にT細胞であるため、ふだんは血液の中やリンパ節などのリンパ組織に存在しています。
- 一度HTLV-1に感染するとずっと感染したままですか
- HTLV-1の感染は、ウイルスの遺伝子が宿主細胞の染色体(ゲノム)DNAに組み込まれたプロウイルスになることによって起こります。一度組み込まれたプロウイルスは、二度と抜け落ちることなく、その細胞の中で受け継がれていきます。現在のところ、薬などでプロウイルスを排除することはできませんので、一度HTLV-1の感染が成立すると生涯にわたり感染したままとなります。
- HTLV-1は体の中でどのように感染をひろげますか
- HTLV-1が感染をひろげる方法は2つあります。1つ目は、HTLV-1に感染していない細胞と接触するとウイルス粒子を渡し、HTLV-1に感染していなかった細胞を感染させることで、感染をひろげる方法です。このような感染方法を細胞間感染とよびます。2つ目は、HTLV-1が感染している細胞そのものを増やして自己の遺伝子のコピー数を増やすもので、これをクローナルな増殖とよびます。
- 体の中でHTLV-1の感染をどのように抑えていますか
- 人は免疫の力によって、ウイルスの感染拡大を防ぐように働きます。したがって、体の中のHTLV-1感染細胞の数は、通常、HTLV-1が感染を広げようとする力と、体がもともと持つ免疫の力とのバランスで一定に保たれています。
- HTLV-1のプロウイルス量や感染細胞率とはなんですか
- 体の中にどれくらいのウイルスが存在するかを数字で表したものを「プロウイルス量」と呼びます。HTLV-1の場合は、血漿中にウイルス粒子を検出することができないため、ウイルスに感染している細胞の数をウイルス量として表しています。HTLV-1は、感染すると細胞のゲノム(DNA)に「プロウイルス」として組み込まれます。基本的に1個の感染細胞に組み込まれているプロウイルスは一つなので、「プロウイルスの数=感染細胞の数」となります。そのため血液中に感染細胞がどのくらい存在するのかは、測定する全ての細胞の中にいくつのプロウイルスがあるかを調べることでわかります。一般的に血液の単核球(リンパ球と単球)中に含まれるプロウイルス(HTLV-1遺伝子)の数を測定したものをプロウイルス量や感染細胞率といい、単核球100個あたりのプロウイルスのコピー数(コピー/100細胞)や感染細胞の比率(%)として表現します。
- HTLV-1キャリアとはなんですか
- インフルエンザウイルスなどとは違って、HTLV-1の場合は感染していても特に症状はありません。HTLV-1感染者の約95%は、生涯にわたりHTLV-1感染が原因となって起こる病気を発症せず、感染していない人と同じように生活することができます。無症状のままHTLV-1というウイルスを持続的に保有している人のことを「HTLV-1キャリア」とよびます。
一方で、HTLV-1キャリアの一部の人は、成人T細胞白血病・リンパ腫(ATL)、HTLV-1関連脊髄症(HAM)、HTLV-1ぶどう膜炎(HU/HAU)などの病気を発症します。 - HTLV-1に感染するとどのような病気になりますか
- HTLV-1キャリアは、生涯のうちに約5%の頻度で成人T細胞白血病・リンパ腫(ATL)とよばれる血液の病気を、約0.3%の頻度でHTLV-1関連脊髄症(HAM)とよばれる神経の病気を発症します。また、HTLV-1キャリア10万人あたり90~110人がHTLV-1関連ぶどう膜炎(HU/HAU)という眼の病気を有していることが知られています。その他、シェーグレン症候群、筋炎、肺病変、関節炎などとの関連が疑われていますがその因果関係ははっきりしていません。また、一人の人がこれらの病気を合併して発症することもあります。
- どのようなHTLV-1キャリアがATLを発症しやすいですか
- 体の中のHTLV-1感染細胞の数(プロウイルス量)は、通常、HTLV-1が感染を広げようとする力と、体がもともと持つ免疫の力とのバランスで一定に保たれています。
しかしながら、何かのきっかけでHTLV-1感染細胞のゲノムに変異などが起こると、HTLV-1感染細胞は自発的に増殖するようになります。このように自発的に増殖するようになった細胞(クローナルな細胞といいます)は「がん化」しやすく、さらにゲノムの変異が蓄積してHTLV-1感染細胞ががん化した状態になるとATLを発症します。そのためクローナルな細胞が増えてきている場合は、ATLを発症するリスクが高いと考えられています。これまでの研究で感染細胞の割合が単核球(リンパ球と単球)の4%以上の方々がATLを発症する危険が高いと報告されています。ゲノムに変異を引き起こすよく知られた原因としては喫煙が知られていますが、HTLV-1キャリアでも、喫煙者にATL発症リスクが高いことが知られています。また、家系内にATLを発症した方がいる場合もATLの発症リスクが高いことがわかっています。 - どのようなHTLV-1キャリアがHAMを発症しやすいですか
- HAM患者ではHTLV-1キャリアに比べるとHTLV-1感染細胞の数(プロウイルス量)が多いので、HTLV-1感染細胞数が高いHTLV-1キャリアは、HAMの発症リスクが高いといわれています。HTLV-1感染細胞の増え方には、一つの感染細胞が増えるモノクローナルな増殖と、様々な感染細胞が増えるポリクローナルな増殖といった2つの様式がありますが、HAMの発症リスクが高いキャリアは、ポリクローナルな増殖をしている特徴があります。
またHAMは、免疫が活性化しているという特徴があります。免疫は本来、体の中に外敵が侵入してきた際に攻撃してくれる重要な役割を果たしていますが、その機能が暴走(活性化)しすぎると自分の体を攻撃してしまうことがあります。この免疫の機能を決定する要因として、白血球の型(HLA:Human Leukocyte Antigen)が重要であることはよく知られていますが、特定の白血球の型を保有しているHTLV-1キャリアはHAMの発症リスクが高いことが知られています。
その他にも、腎臓移植などの臓器移植でHTLV-1に初めて感染すると、移植後に数年でHAMを高率に発症するリスクがあることが分かっています。そのため、腎臓移植の際は臓器を提供する方(ドナー)と臓器の提供を受ける方(レシピエント)のHTLV-1抗体検査を移植前に実施し、HTLV-1感染ドナーから非感染レシピエントへの移植は、原則実施しないように推奨されています。 - どのようなHTLV-1キャリアがぶどう膜炎(HU/HAU)を発症しやすいですか
- HTLV-1関連ぶどう膜炎(HU/HAU)の患者ではキャリアに比べるとHTLV-1感染細胞の数(プロウイルス量)が多いので、HTLV-1感染細胞数が高いHTLV-1キャリアは、HU/HAUの発症リスクが高いといわれています。
また重要なことに、HTLV-1キャリアがバセドウ病(甲状腺機能亢進症)を発症して、チアマゾール(商品名:メルカゾール)の治療を受けた後に、HU/HAUを発症するリスクが高いことが知られています。 - いつHTLV-1に感染したかを知ることはできますか
- HTLV-1に感染しても感染直後に特徴的な症状が現れることはありませんので、定期的にHTLV-1の抗体検査をしない限り、いつ感染したのかを知るのは困難です。
- HTLV-1キャリアはどのくらいいますか
- 平成21年の厚生労働省科学研究班(山口班)の全国調査によると、HTLV-1 の感染者(キャリア)数は約 108 万人以上と推定されています。また平成26年の日本医療研究開発機構(AMED)研究班(浜口班)の調査では、約72~82万人と推定されています。つまり国民の約100~150人に1人はHTLV-1キャリアであると推定されています。
- HTLV-1キャリアが多い地域はどこですか
- もともと九州・沖縄地方に多く、西高東低であることが知られていましたが、近年では人口の大都市圏への移動、集中にともなって大都市圏で増加傾向にあります。日本以外では、カリブ海沿岸、中南米、アフリカなどに多く、最近ではオーストラリアの先住民族にも多いことが明らかになりました。
- HTLV-1総合対策とはなんですか
- HTLV-1の感染と、それに起因する疾患群への対策に総合的に取り組むため、平成22年9月、国によりHTLV-1総合対策がまとめられました。HTLV-1総合対策では、1. 感染予防対策、2. 相談支援(カウンセリング)、3. 医療体制の整備、4. 普及啓発・情報提供、5. 研究開発の推進の5つの重点施策が掲げられ、国、地方公共団体、医療機関、患者団体等が密接な連携を図り、HTLV-1対策を強力に推進することを目標としています。
HTLV-1総合対策 全文(PDF:175KB)、骨子(PDF:184KB) - HTLV-1対策推進協議会とはなんですか
- 厚生労働省において開催される協議会のことで、HTLV-1 対策に携わる行政、専門家、患者等が参加してHTLV-1総合対策の推進について協議します。
- HTLV-1母子感染対策協議会とはなんですか
- HTLV-1 母子感染予防対策を検討するための協議会のことで、国が各都道府県に設置を求めています。厚生労働省科学研究班(板橋班)が実施したアンケート調査では、2017年11月時点で全国47都道府県のうちHTLV-1母子感染対策協議会が設置されているのは38都道府県であることがわかりました。
- WHOはHTLV-1感染対策に取り組んでいますか
- 令和元年11月、HTLV-1に関するWHOのグローバル協議会という国際会議が東京で開催され、WHOの感染症対策として優先順位の高いリストの中にHTLV-1が追加されました。また令和3年3月には「WHO HTLV-1テクニカルレポート」が発行されました。
WHOによる現在の感染予防対策はGlobal Health Sector Strategies on HIV, Viral Hepatitis and Sexually Transmitted Infectionsとして推進されており、ここではHTLV-1感染予防対策が性感染症対策の中に含まれています。このようにWHOも、HTLV-1をグローバルヘルスの観点において対策の必要性が高い重要な感染症であると位置づけており、その対策に取り組んでいます。
WHO HTLV-1テクニカルレポート - 世界HTLVデーとはなんですか
- HTLV-1の普及啓発と感染予防対策の推進を目的として、HTLV-1関連の患者会や日本HTLV-1学会、国際レトロウイルス学会(IRVA)により、11月10日が「世界HTLVデー(World HTLV Day)」と制定されました。
世界HTLVデーのキャッチコピーは「知ることから始めよう!」です。ロゴマークの左に配置された地球は、世界のHTLV-1を抑え込むという願いが込められています。