HTLV-1基礎知識Q&A
母子感染予防
- 母子感染とはなんですか
- なぜ母乳でHTLV-1に感染するのですか
- 赤ちゃんにHTLV-1をうつさないためにはどうしたらよいですか
- 赤ちゃんに母乳を与えなければ安心ですか
- 子宮内感染や産道感染の可能性もあるのであれば母乳を与えてもよいのではないですか
- ATLやHAMの発症率は高くないのに感染予防は必要ですか
- 母子感染とはなんですか
- HTLV-1に感染しているお母さんから赤ちゃんにHTLV-1がうつることをいいます。HTLV-1の場合、母子感染は主に母乳に含まれる感染したリンパ球を介して起こり、HTLV-1に感染しているお母さんが赤ちゃんに母乳を与え続けた場合、赤ちゃんの5~6人に1人がHTLV-1に感染するといわれています(感染率15~20%)。
また最近、母乳を介した感染のほか、まれに胎盤から感染する可能性もあるという研究データが得られています。 - なぜ母乳でHTLV-1に感染するのですか
- 母乳の中にはリンパ球が多く含まれていますので、赤ちゃんが母乳を飲むことで、お母さんのリンパ球をたくさん体内に取り込むことになります。お母さんがHTLV-1に感染している場合、母乳の中のリンパ球にはHTLV-1に感染したリンパ球も含まれるため、HTLV-1に感染しているお母さんの母乳を飲んだ赤ちゃんは、生きたままの状態のHTLV-1感染細胞をたくさん体内に取り込むことになり、HTLV-1がうつってしまう恐れがあるのです。
- 赤ちゃんにHTLV-1をうつさないためにはどうしたらよいですか
- HTLV-1をうつさないためには、①母乳を全く与えずミルクのみで赤ちゃんを育てることが、最も有効な方法です。ただしこの方法を選択した場合でも約3%は赤ちゃんにHTLV-1がうつってしまうことが報告されており、これは胎盤からの感染などによるものと考えられています。
母乳で赤ちゃんを育てることは、お母さんにとっても赤ちゃんにとってもメリットがあると言われています。そのため、たとえ赤ちゃんに感染するリスクがあったとしても、どうしても母乳で育てたいとお母さんが強く希望する場合は、②90日未満の短期間のみ母乳を与え以降はミルクを与える(短期母乳栄養)、③-20℃以下の家庭用冷凍庫で24時間以上冷凍後、解凍して温めた母乳を与える(凍結母乳栄養)という方法もあります。
これまでの研究で、①完全にミルクで育てる、②90日未満の短期間のみ母乳を与え以降はミルクを与える(短期母乳栄養)という方法を選択した場合のそれぞれの赤ちゃんへの感染率を調べたところ、①と②の方法の間では、感染率に大きな違いがないことがわかりました。②の方法を選択した場合、なぜ①と同じようにほとんど赤ちゃんに感染しないのかははっきりしませんが、赤ちゃんがお母さんから胎盤を経由してもらったHTLV-1に対する抗体が短い期間残存して感染を予防する働きがある、母乳を飲む期間が短いためうつりにくいなどの理由が考えられています。②の方法を選択しても①とほとんど変わらないのであれば、②の方法がよいと思えるかもしれませんが、②の方法の問題は、一度赤ちゃんに母乳を与えてしまうと90日たった後にミルクに切り替えるのが難しいという点にあります。母乳を与える期間が90日を超えて長期化してしまった場合、その期間が6か月以下であっても感染リスクが約3倍上昇すると考えられています。
③の-20℃以下の家庭用冷凍庫で24時間以上冷凍後、解凍して温めた母乳を与えるという方法(凍結母乳栄養)は、母乳を凍結・解凍処理することによりHTLV-1に感染したリンパ球が破壊されることで感染能力を失い、赤ちゃんへの感染を予防すると考えられています。しかしながらこの方法は、栄養面では母乳栄養の利点を活かすことができますが、直接授乳できないため、搾乳や衛生面の配慮など、ミルクよりも手間がかかってしまうという欠点があります。また最近は「食品の細胞を壊さずおいしく食べられる」などといった冷凍庫も普及しており、家庭用冷凍庫で本当にHTLV-1に感染したリンパ球が破壊されたのかはっきりしないという問題点もあるため注意が必要です。今のところ、十分なデータがないため学術的に推奨できる予防法ではありませんが、低出生体重児などの場合で、母乳も与えたいが感染もできるだけ防ぎたいなどといった場合の選択肢のひとつとなります。
①~③のどの方法で赤ちゃんを育てるのかは、パートナーやかかりつけの産婦人科医、助産師、HTLV-1に詳しい医師などとよく相談し、分娩までにあなたが納得できる方法を選択することをお勧めします。
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- 母乳を全く与えず完全ミルクで赤ちゃんを育てた場合でも、約3%の赤ちゃんにHTLV-1が感染してしまうことが報告されています。胎盤からの感染の可能性があるという研究データも得られていますが、残念ながら今のところ、はっきりした原因は明らかになっていません。
- 子宮内感染や産道感染の可能性もあるのであれば母乳を与えてもよいのではないですか
- 子宮内感染や産道感染の可能性はあるものの、その割合は非常に少ないと考えられていますので、赤ちゃんへHTLV-1をうつさないためには母乳を与えない方が安心です。どうしても母乳で育てたいという強い希望がある場合は、90日未満の短期間のみ母乳を与え以降はミルクを与える(短期母乳栄養)、-20℃以下の家庭用冷凍庫で24時間以上冷凍後、解凍して温めた母乳を与えるという方法(凍結母乳栄養)もあります。かかりつけの産婦人科医、助産師、HTLV-1に詳しい医師などとよく相談し、分娩までにあなたが納得できる方法を選択することをお勧めします。
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HTLV-1に詳しい医師の相談窓口(有料)はこちら - ATLやHAMの発症率は高くないのに感染予防は必要ですか
- HTLV-1キャリアが成人T細胞性白血病・リンパ腫(ATL)やHTLV-1関連脊髄症(HAM)を発症する頻度は約5%で、決して高くはありません。しかしながら、HTLV-1がうつってしまった赤ちゃんが将来これらの病気を発症しないとは言い切れませんし、今のところ発症を予防する方法もありません。ATLは発症すると致死率が非常に高い病気で、HAMは進行すると車イスや寝たきりの生活となり、今でも治療が難しい病気です。将来これらの病気が発症するリスクを減らすためには、感染予防が最も有効です。