HTLV-1基礎知識Q&A
HTLV-1によっておこる病気 -ATL-
- ATLとはどのような病気ですか
- HTLV-1キャリアがATLを発症するのはどの程度ですか
- ATLを発症するとどのような症状が認められますか
- ATLはどのように診断されますか
- ATLの病型分類とはなんですか
- ATLの状態を知るための検査にはどのようなものがありますか
- ATLを発症するとどのような経過をたどりますか
- ATLの治療法にはどのようなものがありますか
- ATLの治療のながれはどのようになりますか
- 化学療法とはなんですか
- 造血幹細胞移植とはなんですか
- 造血幹細胞とはなんですか
- 移植片対宿主病(GVHD)とはなんですか
- どのような人が造血幹細胞移植の適応になりますか
- ATLの治療にはどのぐらいの費用がかかりますか
- ATLを発症した場合、家族のHTLV-1感染を調べたほうがよいでしょうか
- ATLとはどのような病気ですか
- ATLとは、成人T細胞白血病・リンパ腫(adult T-cell leukemia-lymphoma)の略で、白血病・リンパ腫の一つです。HTLV-1感染者の約5%がATLを発症するといわれていて、男女比は1.2:1と、やや男性に多い傾向があります。患者年齢は高齢者に偏り、40歳以下での発症は極めてまれで、発症のピークは60歳代の後半です。
ATLは、急性型、リンパ腫型、慢性型、くすぶり型の4病型に分類され、病型によって症状の現れ方や予後が大きく異なります。特に急性型、リンパ腫型は悪性度が高く予後が悪いです。
ATLはHTLV-1に感染したT細胞が長い年月をかけてがん化することによって起こる病気で、以下のようなさまざまな症状が現れます。
- 全身に強い倦怠感があり、高熱が何日も続く(通常1週間以上)
- 足の付け根、首、脇の下などのリンパ節が腫れる
- 皮膚の赤い発疹や盛り上がった発疹がなかなか治らない
またATLは免疫機能を担っているリンパ球ががん化する病気のため、免疫機能が著しく低下し、健康な人はかからないような深刻な感染症にかかりやすくなります(日和見感染症といいます)。ATLが進行するといろいろな臓器に障害を起こし、放置すると死に至ります。 一方、くすぶり型は無症状であることが多く、あってもほとんどは皮膚病変のみです。慢性型も同様に無症状であることが多いですが、リンパ節の腫れを伴う場合もあります。
なお、HAMの患者さんがATLを発症することもあります。 - HTLV-1キャリアがATLを発症するのはどの程度ですか
- ATLの年間発症率は、40歳以上のHTLV-1キャリアでおよそ1,000人に1人です。また、キャリアの方の一生を通じてみるとこの病気になるのは、男性でおよそ20人に1人、女性はおよそ40人に1人、生涯において発症する確率は男女をあわせると約5%といわれています。
- ATLを発症するとどのような症状が認められますか
- ATLの代表的な病型といえる急性型、リンパ腫型では、全身のリンパ節や肝臓や脾臓の腫れ、発熱が起こります。また、皮膚紅斑(皮膚の赤い発疹)や皮下腫瘤(皮膚の下にできるしこり)などの皮膚症状や、下痢、腹痛などの消化器症状もしばしば見られます。ATLの悪化により血液中のカルシウムの値が上昇すると、全身の倦怠感、便秘、意識障害等が起こります。
一方くすぶり型は無症状であることが多く、あってもほとんどは皮膚病変のみです。慢性型も同様に無症状であることが多いですが、リンパ節の腫れを伴う場合もあります。 - ATLはどのように診断されますか
- ATLの診断は、臨床像、血液像、抗HTLV-1抗体検査などを組み合わせて行います。
リンパ節の腫れや倦怠感、発熱、皮膚の発疹などATLを疑う症状が現れ、血液中に白血球が増える、ATLに特徴的な異常リンパ球である花細胞(フラワー細胞)が見られる、LDH(乳酸脱水素酵素)が増える、sIL-2R(可溶性IL-2受容体)が増える、カルシウムが増えるなどの検査結果が得られた場合、腫れているリンパ節や皮膚の病変部位の生検(組織の一部をとって顕微鏡で確かめる検査)を行い、これがT細胞による腫瘍であるかどうかを確認します。T細胞による腫瘍であった場合、血液にHTLV-1抗体があるかどうかを検査し、抗体検査で陽性であった場合にATLと診断します。確認のために、HTLV-1感染細胞(ATL細胞)がクローナルに増殖しているか検査する場合もあります。
まれに抗体検査が陽性でありながら、腫瘍細胞が HTLV-1感染細胞からなる腫瘍ではない、ATL以外のT細胞の腫瘍である場合があります。このような場合は、腫瘍細胞がHTLV-1に感染しているかどうかを調べ、HTLV-1に感染した細胞であることがわかればATLと確定診断されます。 - ATLの病型分類とはなんですか
- ATLは、血液中に異常リンパ球がどのぐらいあるか、リンパ球が増加しているか、LDH(乳酸脱水素酵素)やカルシウムが増えているか、腫瘍がどこにあるかにより、急性型、リンパ腫型、慢性型、くすぶり型の4つの病型に分類されます。
急性型、リンパ腫型、慢性型のうち予後不良因子(血液検査項目のうち、LDH高値、アルブミン低値、BUN高値のいずれか1つ以上が該当)がある場合は、進行が速いことが多く「アグレッシブATL」とよばれます。一方、予後不良因子がない慢性型とくすぶり型は比較的経過が緩やかであるため、「インドレントATL」とよばれます。
なお、予後不良因子がない慢性型とくすぶり型のインドレントATLは、急性転化といって、経過中に急性型に移行することがあります。 - ATLの状態を知るための検査にはどのようなものがありますか
- 腫瘍細胞が骨髄にひろがっていないかを調べるための骨髄検査、腫瘍細胞が脳へひろがっていないかを調べるための髄液検査、全身の状態を調べるためのCT、PET、MRI、内視鏡検査を行う場合があります。
- ATLを発症するとどのような経過をたどりますか
- 予後不良因子(血液検査項目のうち、LDH高値、アルブミン低値、BUN高値のいずれか1つ以上が該当)がある場合は、進行が早く予後が不良です。
予後不良因子がない慢性型とくすぶり型のインドレントATLは、無治療で経過観察されますが、経過中、急性型に移行する場合があります(急性転化といいます)。急性転化までの期間は人によって大きく異なりますが、急性転化した場合の予後は不良です。 - ATLの治療法にはどのようなものがありますか
- 急性型、リンパ腫型、慢性型のうち予後不良因子(血液検査項目のうち、LDH高値、アルブミン低値、BUN高値のいずれか1つ以上が該当)があるアグレッシブATLと、予後不良因子がない慢性型とくすぶり型のインドレントATLとでは治療法が異なります。
アグレッシブATLやインドレントATLが急性型に移行した急性転化型は、急速に症状が進行することが多く、早急な治療を必要とするため、抗がん剤による化学療法が行われます。また70歳未満でドナーが見つかった場合には造血幹細胞移植が行われます。その他、分子標的治療薬の一つである抗CCR4抗体のモガムリズマブ、免疫調整薬であるレナリドミド、ヒストン脱アセチル化酵素阻害剤のツシジノスタットなどによる治療が行われます。また、免疫が低下することにより重症な感染を合併する場合も多く、それに対する治療も行われます。
インドレントATLは、通常は症状がなく、早期に治療を開始してもあまり変化がないため、急性型に移行(急性転化)するまでは治療はせず、厳重な経過観察を行います。皮膚病変などがある場合は、局所外用剤や紫外線照射などによる治療が行われます。 - ATLの治療のながれはどのようになりますか
- ATLであると診断された後、病気がどのような状態か、また治療方針を決定するためにさまざまな精密検査を行います。この検査結果により主治医より治療方針が説明されますので、よく話し合って治療方法を決定してください。その後、決定した治療が始まりますが、困ったことがある場合は医師や看護師に相談してください。
- 化学療法とはなんですか
- 抗がん剤を使用した治療のことをいい、ATLに対しては数種類の抗がん剤を組み合わせた治療が行われます。抗がん剤は、がん細胞だけでなく正常な細胞にも影響を及ぼすためいろいろな副作用が現れます。
- 造血幹細胞移植とはなんですか
- 大量の化学療法や放射線治療などの前処置により骨髄中の腫瘍細胞を減らした後に、ドナーから提供された正常な造血幹細胞を移植し、その移植した造血幹細胞に正常な血液細胞を作り出してもらう、という治療法です。造血幹細胞を提供するドナーと、提供を受ける患者さんはHLAとよばれる白血球の6 個の型が一致している必要があり、親子では通常HLAが一致せず、兄弟でもHLAが一致するのは1/4の確率です。血縁者の中でドナーが見つからない場合には、骨髄バンクから探すことになります。HLAの6個の型 が完全に一致しているのが原則ですが、完全に一致しているドナーが見つからない場合には、HLAの1個の型が不一致の方から移植を行う場合もあります。
造血幹細胞移植は、移植前の処置方法により骨髄破壊的移植(フル移植)と骨髄非破壊的移植(ミニ移植)とに分類されます。骨髄破壊的移植(フル移植)は大量の化学療法や放射線治療などによる強力な前処置の後に、造血幹細胞を移植する治療法です。強力な前処理により強い副作用が現れ肉体的な負担が大きいことから、50~55歳までが年齢の上限の目安とされています。骨髄非破壊的移植(ミニ移植)は、程度を弱めた化学療法や放射線治療による前処置の後に、造血幹細胞を移植する治療法です。前処置による副作用が軽くなるため、比較的高齢の方でも受けることができます。骨髄破壊的移植(フル移植)に比べて患者さんがもともと持っている腫瘍や免疫の働きを抑える効果が弱いため、再発や拒絶反応が増加する可能性がありますが、骨髄非破壊的移植(ミニ移植)でもATL に対して効果が期待できることが報告されています。
副作用には、化学療法と同様の副作用が現れるほか、造血幹細胞移植に特有な移植片宿主病(GVHD)とよばれる副作用も現れます。また、造血幹細胞を移植しても数日で血液が作り始められるわけではないので、移植した造血幹細胞から血液が作り出されるまでの間は無菌室で過ごすことが必要です。 - 造血幹細胞とはなんですか
- 血液は、赤血球、白血球、血小板といった細胞の成分と、血漿とよばれる液体の成分から成り立っています。この赤血球、白血球、血小板といった細胞の成分は骨の中の骨髄という場所で作られています。
造血幹細胞とは、赤血球、白血球、血小板を作り出すもとの細胞のことで、自分自身を増やして一定の数を保つ能力を持つほか、赤血球、白血球、血小板に変化する(このことを分化といいます)能力を持ちます。一度、赤血球、白血球、血小板に分化した造血幹細胞はもとに戻ることはありません。造血幹細胞は、骨髄や、お母さんと赤ちゃんを結ぶ臍帯(へその緒)と胎盤の中に含まれる臍帯血の中にもあります。 - 移植片対宿主病(GVHD)とはなんですか
- 移植片対宿主病(GVHD)は、ドナー由来のリンパ球が患者さんの正常臓器を異物とみなして攻撃することによって起こります。重症化すると時に命にかかわることもありますので、免疫抑制剤を使用してコントロールします。一方で、ドナーのリンパ球が患者さんの腫瘍細胞を攻撃する移植片対白血病効果(GVL効果)も期待されます。
ちなみに「拒絶反応」は、肝臓や腎臓などの臓器を移植した後にみられる反応のことで、患者さんの免疫細胞がドナー由来の移植片(臓器)を異物とみなして攻撃することによって起こり、GVHDとは異なります。 - どのような人が造血幹細胞移植の適応になりますか
- アグレッシブATLやインドレントATLが急性型に移行した急性転化型で、HLAが完全一致もしくは1個の型のみ不一致のドナーが見つかった場合で、骨髄破壊的移植(フル移植)は50~55歳未満、骨髄非破壊的移植(ミニ移植)は65~70歳未満が適応の目安となります。
- ATLの治療にはどのぐらいの費用がかかりますか
- 受ける治療によって費用は様々なので早めに担当医に相談しましょう。
治療には健康保険が適用されます。病院で支払う1か月の自己負担額が一定の限度額を超えた場合、超過した自己負担額を支給する高額療養費制度がありますので、詳しくは加入している健康保険の窓口に問い合わせてください。また、1年間の医療費の自己負担額が一定額を超えた場合、確定申告することにより所得税が減税される税金の医療費控除もありますので、こちらは税務署に問い合わせてください。 - ATLを発症した場合、家族のHTLV-1感染を調べたほうがよいでしょうか
- あなたがATLを発症した場合、ご家族の中にもHTLV-1キャリアがいる可能性があります。ご家族がHTLV-1に感染しているかどうかを知りたいと希望している場合には、調べたほうがよいでしょう。しかしながら、ご家族が希望していない場合には、ご家族が感染を調べて陽性となった場合のことを考える必要があります。判断に迷う場合は、HTLV-1に詳しい医師に相談してみるのもよいかもしれません。
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